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青森地方裁判所八戸支部 昭和31年(ヨ)36号 決定 1956年9月28日

申請人 湯川富三

被申請人 三沢空軍基地労務連絡士官ジァク・アール・ペリー

主文

申請人の申請を却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

理由

第一、申請の趣旨

申請代理人は「三沢空軍基地将校クラブ経営責任者ドナルド・デイ・フーヴアーが申請人に対し昭和二十九年十月二十日付で為した解雇の意思表示の効力を停止する、被申請人は申請人に対し金三十六万円及び昭和三十一年四月二十日以降毎月二十日金二万円を支払え」との仮処分命令を求める。

第二、当裁判所の判断

一、申請の要旨

(1)  申請人は昭和二十六年六月頃から米国駐留軍空軍三沢基地内空軍基地将校クラブ(同クラブは権利能力なき社団であり、代表者によつて経営される)に所謂軍直接雇傭労務者として同クラブ経営責任者(同クラブ総支配人)キャプテン、レオードに雇傭され、爾後同クラブ内簡易食堂のコックとして勤務したが、同二十八年七月同クラブ内に併設されていた将校用食堂が将校クラブに統合されたため、申請人は両食堂のコツク長として勤務し基本給月額二万円を支給されていたところ昭和二十九年十月二十日、同将校クラブ経営責任者(同上総支配人)ドナルド・デイ・フーヴアーによりコックとしての職務の完全遂行に欠けるところありとの理由で解雇された。

然れども右解雇の理由は全く事実無根で、その真の理由は申請人が活溌な組合活動をしたために外ならない、即ち空軍三沢基地将校クラブに勤務する日本人労務者は全員直接雇傭の労務者(日本政府が駐留軍の役務に供給するため雇用し労務の提供を米国にする所謂間接雇傭の労務者に対していう)にして申請人もその一員であるところ昭和二十九年五月頃前記間接雇傭の労務者を以て組織する全駐留軍労働組合が直接雇傭の労務者もその組合員として加入し得るよう組合規約を改正した結果、申請人等前記将校クラブの労務者も右組合に加入しようとする気運を生じ、同年九月下旬頃から申請人は右組合加入運動につきその指導的立場に立ち最も活溌にその説得活動を行い、ために同年十月七日前記将校クラブ労務者約百九十名中百四十名が一挙該組合に加入するに至つた。ここにおいて申請人の右活動に対し常々嫌忌し、労務者の組合加入を直接、間接に阻止して来た前記将校クラブの経営責任者ドナルド・デイ・フーヴアーはこれを好しとせず不法にも前記の如く辞を設けて申請人を解雇するに至つたものである。

(2)  右解雇は労働組合法第七条に違反する不当労働行為であり、よつて申請人は右解雇の無効確認を求むる訴提起の準備中であるがその判決を待つては賃金収入を唯一の生活費としている申請人にとつては測り得ない損害をうけるものである。

(3)  而して、その後右将校クラブの経営代表者は日本人労務者の雇入解雇に関する権限を自ら行使せず昭和三十年九月頃から同基地内駐在の労務連絡士官ジアク・アール・ペリーにその権限を委任した。これにより被申請人は従来のすべての雇傭関係に関する前記将校クラブの法律関係を承継したものである。

二、右に対する判断

右事実中(1)(2)及び(3)前段記載の事実は申請人提出にかかる疏甲第一号証乃至第六号証を綜合して一応これを認めることができる。

けれども同(3)後段記載の事実(昭和三十年九月頃前記将校クラブから日本人労務者の雇入解雇に関する権限を行使することを委任された被申請人が前記将校クラブと申請人間の昭和二十九年十月二日解雇に関する権利義務を承継したとの点)については何等疏明がないからこの点において本件申請は却下を免れない。よつて民事訴訟法第八十九条により主文のとおり決定する。

(裁判官 工藤健作)

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